2011.12.11 Sunday
パウル・クレー展 2つのポリフォニー、音楽と絵画
2011/10/18-2012/01/15
メトロ:Porte de Pantin (5番線)
開館時間:火曜日-土曜日 12-18時
日曜日 10-18時
入場料:一般 8ユーロ 割引 5ユーロ
※ 12月25日と1月1日は休館
パウル・クレーの絵画と音楽の関係に焦点をあてた展覧会が、シテ・ド・ラ・ミュージックで開催されています。
シテ・ド・ラ・ミュージックという施設はその名の通り、音楽を専門にした文化施設で、パリの北東、サンマルタン運河沿いのラヴィレット公園にあり、コンサートホール、音楽の図書館の他に、音楽の美術館を併設しています。2009年に改築された美術館の常設展では、四世紀に渡る西洋音楽の歴史を楽器の展示とともに振り返ることができるほか、世界の主要な音楽の概要も紹介。常設展に加えて、年に二回の企画展が開催されています。
この音楽専門の美術館で画家を扱う展覧会を催すのは初めての試みだそうですが、その最初の画家にパウル・クレーを選んだというのにも、クレーの作品の音楽との深い関係を考えると納得がいきます。
クレーは音楽家一家に生まれ、自身も早くからヴァイオリンを習い、画家の道を選んだ後も、ヴァイオリンを弾き続けました。ミュンヘンの美術学校で、イーゼルを譜面台にし、友人達との5重奏でヴァイオリンを担当するクレーの写真が残っています。
バッハ、モーツァルト、ベートーベン、ブラームスを好んで演奏し、とりわけバッハのポリフォニー音楽とモーツァルトのオペラに深い影響を受けたようです。著作では、これら大作曲家の音楽への考察はもちろん、同時代の作曲家にも言及していて、クレーの深い音楽的教養を伺い知ることができます。

2010年にオランジュリー美術館が開催したパウル・クレー展ではスイス、バーゼルのバイエラー・コレクションから作品が貸し出されていましたが、この展覧会では主にベルンのパウル・クレーセンターから、豊富な作品と資料が貸し出されています。
「ポリフォニー」をテーマとして、音楽専門の美術館らしくクレーが聴いた音楽の性質に焦点をあてながら、クレーの絵画における記号の多層性を分析し、表現手段の異なる絵画と音楽の共鳴という非常に複雑で大きな問題に果敢に向かいあっているのが素晴らしい。
目玉は、クレーが聴いて影響を受けた音楽をオーディオガイドで聴けるということ。モーツァルトやバッハを聴きながら、性質の異なる複数の造形言語が画面上で共鳴し合って音楽を奏でているようなクレーの絵画を鑑賞することができるというのは、なんとも至福のひとときです。
2011.12.07 Wednesday
パリ・フォト2011 レポート No. 3
1日に1時間半のTable ronde(討論会)が2回、Vue d'artiste(「アーティストの視点」写真家による作品紹介)が1回、アーティストによるパフォーマンスが1、2回。日ごとにテーマが設定してあり、1日目が「地理」、2日目が「技術」、3日目が「社会とメディア」、4日目が「身体」で、各テーマの中で写真について語る、という趣向。コミッショナーは女性美術批評家シャンタル・ポンブリアン。

私が聞いたのは身体と写真をテーマにした討論会の一つ。4人の写真家Valérie Belin(活動拠点:パリ), Sunil Gupta(ロンドン), Vlatka Horvat(シェフィールド), Zanele Muholi(ケープタウン)を招き、パリ第8大学の社会学教授Laurent Jeanpierreが司会。討論会の仰々しいテーマ、「現代のグローバル化における地理と技術の変化は身体を新たな次元へと迷い込ませたが、芸術においてその現象はいかに表現されているか」に対して、各写真家の選んできた写真は厳密にはテーマに合致していない気がしましたが、身体表象のバリエーションとして興味深かったです。身体をテーマにした自分の写真を各写真家がスクリーンに写し、自分の写真にとって身体とはどういう意味・役割を持つか、どういう思考がそこに働いているかを説明。Sunil GuptaとZanele Muholiが扱っているのはホモセクシュアリティ、Valérie Belinはポートレート、Vlatka Horvatは空間の中の身体表象。
Vlatka Horvat(イギリス、シェフィールド)の作品はコンセプチュアルで、写真という2次元表象の限界を逆手にとりながら、空間とその中の身体の関係が表現されています。
(写真家のサイト:http://www.vlatkahorvat.com/
例えばHidingやObstructedシリーズを参照)
Valérie Belin(フランス、パリ)が選んできたポートレートは、特に顔に焦点をあて、あるコンセプトのもとに一連のポートレートを撮ってシリーズにしたもの。精巧なマネキンを撮ったものは光の加減やテクスチャーから見れば見るほど生身の人間の顔ではないかと思わせ、一方で、黒人の女性を真正面から撮ったシリーズは造形的な均衡から彫刻を思わせる。ポートレート写真というジャンルに軸をおきながら、そのジャンルの境界そのものを揺さぶり、現実とフィクションの狭間で綱渡り師のようにバランスをとっている。写真そのものが魅力的かどうかは別にして、その試みは面白いです。
(写真家のサイト:http://www.valeriebelin.com/)
被写体のためのポートレートではなく、ポートレートという概念と造形的・思考的に演じ合うという点で、同じくポートレートに焦点をあてていたヴァルターコレクションの企画展のテーマとも通じるものがあるように思いましたが、その企画展にも選出されていたZanele Muholi(南ア、ケープタウン)が選んできた写真は、南アのレズビアンのカップルを写したもの。マイノリティであり、社会的な差別も厳しい現実を背景に、自分たちの家という親密な空間で撮影された彼女達の寄り添う身体は、感覚に力強く訴える造形思考によって捉えられ、表現されていました。
(写真家のサイト:http://www.zanelemuholi.com/)
今年の夏のポンピドゥーでのインド現代アート展にも出していたSunil Gupta(イギリス、ロンドン)の作品も、同じく同性愛を扱ったものでしたが、物語性を持たせているのと反比例してメッセージ性に欠け、写された状況のセンセーショナルさにだけ負っていて、写真そのものの表現の力は脆弱でした。
(写真家のサイト:http://www.sunilgupta.net/)
最後の質疑応答で、聴衆の中にジャーナリストらしき女性がいて、同性愛を扱った写真に対し、非常に社会的な問題を提起しているが、ジャーナリスム写真との違いは何か、と質問しました。そのとき、寡黙そうなZanele Muholiがすぐにマイクをとり、「ジャーナリスム写真は新聞社や出版社の要請に応えて撮っている。私たちは背後に何も負っていない。新聞の向こうの世論のために撮るのではない、自己の存在論的な葛藤と問いに向かい合って撮っている。それが違いです。」とはっきり言い切ったのが、非常に印象的でした。
もちろん、ジャーナリスム写真にも自己の内なる葛藤や問いに向き合いながら撮ったものがあるとは思いますが(それが例えばLe Balが提示しようとしているもののように感じますが)、他者の視線を意識したりせず、己に向き合って撮るのだ、という毅然とした言い切りに、芸術家の心構えをみせられた思いがしました。外界と対峙しつつ、その外界が刺激する自らの精神の奥へ分け入り、痛みも全て引き受けて自己の底から表現する。自らの表現者としての宿命を引き受ける。そこに、他者が感応する力が宿り、結果的に外へと開いていく。その、内から外へと開くキャパシティーがあるかどうかが、芸術写真としての分かれ目なのでしょう。
この一連のカンファレンス企画を支援していたのはLUMA Fondationという非営利団体。
LUMA Fondationは、ビルバオのグッゲンハイム美術館を設計したアメリカ人建築家フランク・ゲーリーが、個人で活動する芸術家の革新的な芸術活動を支援するために創設したもの。南仏のアルルを拠点とし、スイスの製剤会社ロッシュ・グループの後継者マヤ・ホフマンをメセナに迎えて、SNCF(フランス国鉄)の工場だった敷地を買い取り、アルル市と提携して写真を専門とする複合文化施設の建設を構想。フランク・ゲーリーが設計した複雑な構造の塔の建設は、2011年現在も国の建設許可待ちで、まだ実現に至っていないようです。(2008年のイタリア・ビエンナーレ建築館で展示されたマケットの写真が見られます:designboom)
LUMA Fondationはアルル国際写真祭にも支援団体として関わっています。個々の写真家の支援はもちろん、環境問題、人権問題、広い意味での教育と文化に関わる、領域横断的で革新的なアート・プロジェクトを支援。研究、教育、アーカイブ等の多角的な活動に加え、アートとアイディアを創造する実験的なインターネットサイトの創設も構想しているようです。
話がPARIS PHOTOからずれますが、アルルはここ数年、新しい芸術活動の拠点として躍進している感があります。今一番勢いがある出版社Actes Sudも拠点はアルル。毎年夏に開催されるアルル国際写真祭は年々活気を呈しています。古代ローマの香りを残し、ゴッホが描いた灼熱の太陽が照るアルルの今後に注目したいです。
2011.12.04 Sunday
パリ・フォト2011 レポート No.2

2011.11.12 Saturday
パリ・フォト レポート No.1
第15回目の開催を記念する今年のPARIS PHOTOは、グラン・パレに場所を移して行われました。
23カ国から117のギャラリーが参加し、19世紀のクラシック写真から現代写真まで、写真の世界的なパノラマが提示される年に一度の機会です。

昨年までのルーヴルの地下の会場は、隣接しているものの3箇所に会場が区分けされていて、かといって区分けに特にテーマがあるわけではなく、迷宮のようでしたが、グラン・パレの会場はすっきりとして各ブースの場所を特定するのも易しく、観やすくなりました。高い天井が空間に開放感をもたらしています。

今年はアフリカの写真家に焦点が充てられ、南アのギャラリーがブースを出しているほか、アフリカ写真ビエンナーレで注目を集めた12人の若手写真家の写真が展示されています。
企画展のアルトゥール・ヴァルター個人コレクション展でも、アフリカの写真家の作品が主に展示され、アフリカ写真史を担う各世代の展望を提示する興味深い展覧会となっています。この企画展は、新しい才能を発掘する個人コレクターの担う役割の重要性を強調することも目的としています。

もう一つの企画展では、ロンドンのテートギャラリー、ニューヨーク国際写真センター、ローザンヌのエリゼ写真美術館が最近収蔵した新たな写真コレクションを紹介する展示が行われています。
これら企画展は各ブースの立ち並ぶ間に自然に組み込まれ、かつテーマがはっきりして、展示会場にメリハリを与えており、この点でも去年よりずっと観やすくなったと思います。

PARIS PHOTOにはギャラリーのみならず、出版社も参加しています。今年は、写真に関わる本のクリエイティビティーに注目するべく、この15年間に出版された写真本から60冊が選出して展示され、その中から「パリ・フォト本」賞が決定されるそうです。
写真家による写真集へのサイン会も行われ、私が行ったときにはSteidlのブースにWilliam Egglestonが来ていました。
2011.11.09 Wednesday
知覚の不思議
2011/09/24-2011/12/09
5, Rue Curial 75019 Paris
メトロ:Riquet, Crimée (7番線), Stalingrad (2, 5, 7番線)
開館時間:水、土、日 14-19時
金 18-21時
入場料:一般 5ユーロ 割引 3ユーロ
パリ市が運営する現代アートの空間、CENTQUATRE(サンキャトル)で、3人の造形アーティストたち(Leandro Erlich, Ann Veronica Janssens, Lawrence Malstaf)による、知覚に訴える5つのインスタレーションが楽しめます。
観覧者が空間の中に入り込んで味わう、体験型のインスタレーション。不思議な空間の中で身体感覚を総動員し、精神だけが己を司っているのではないことを再認識してもらうのが狙いのようです。
例えば、濃い霧が立ちこめる部屋の中に迷い込むインスタレーション。あまりに霧が濃いので、手を伸ばした先が既に見えなくなるほどです。霧が視界を遮り、見えない壁に阻まれたように、方向感覚が狂います。霧の色は何種類かに変化し、色によって空間の深度の感覚が変わるのも不思議です。
一度に沢山の人が入ると、ぶつかって危ないので、入場制限があり、出入り口で順番を待ちます。
クラクラした顔、キラキラした顔、不思議な顔、色んな表情で霧の部屋から出てくる人たちを観察するのも面白い。
他にも、鏡による錯覚で遊んだインスタレーションなど。例えば、床に作られたパリのアパルトマンのセットの上に寝転がって手足を動かすと、鏡に映った像ではアパルトマンは垂直に建っていて、寝転がった人はアパルトマンにぶら下がっているように見えます。床の上に立つと、鏡像では建物の壁に向かって垂直に立って歩いているかのよう。
現実の空間ではできないアクロバティックな動きを演じることができ、床の上で動く人も、周りで観ている人も楽しめます。
CENTQUATREはかつて葬儀場として使われていた広大な空間を複合文化施設に改造した場所。現代アートの企画展示のほか、若手クリエーターの展示会やアーティストによるパフォーマンスが随時開催され、本屋、カフェ、子供向けのアトリエなども併設されています。
2011.10.06 Thursday
緑の中で出会うのは


2011.10.06 Thursday
Jane Evelyn Atwood
2011.07.17 Sunday
影を追い続けて

2011.06.10 Friday
写真映画の宵
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